雪の解ける前に 其の二

Tsuda Nao in Blog 2011.03.03


2月下旬は大阪泉北郡にて正木美術館で開催されていた早春展「墨梅」を観に出掛けた。
美術館はこぢんまりとしているが、素晴らしいコレクションが飾られ、
時空を超えて佇む一作一作と向き合う。
現代に生きる我々が古典に習うべき要素はやはり無限に存在している。
花を主題にしている作品は、咲頃に合わせ足を運ぶと尚楽しめる。
遙か室町時代の掛軸を眺め、正木邸にて抹茶を頂き過ごす午後は束の間の休息であった。

翌晩には堺の主水書房にて「殻のない種から・橋本雅也展」を訪ね、
作家のお話と朗読会に参加した。客には知人もちらほら。
展覧会の詳細については主水書房HPにてご覧頂きたい。
今月13日まで開催とのこと。
関西在住の方は是非訪ねてみて欲しいと願う。
一頭の鹿の死に立ち会った作家が、賜物として命を預かり、
その後洗い清めた骨片が彫刻として形作られるまでを想像しながら…
真っ白な花の彫刻があなたの眼にどう映り込むのかを実感してもらいたい。

翌21日、22日には学生時代にお世話になっていた教授と高野山で待ち合わせた。
目的は昨年旅をしたブータン以来、追い続けている「密教」についての
フィールドワーク。


高野山には今から40年程前にブータンへ研究者として訪れた経験のある僧侶や教授が
おられ先生方を訪ねた。
古き記憶と思いきや当時の光景を鮮明に覚えておられ、貴重な話に花が咲いた。
大いなる収穫に感謝。
帰り道は何とか最終の飛行機に間に合わせ横浜へ戻った。
翌日に雑誌のインタビュー取りが入っており、予定を押すわけにはいかなかった。
許されることならば、身体はもっと山の上に居たかった。
今年は高野山へ幾度か通うことになりそうだ。

25日には「密教」関連で上智大学へ講演を聞きに出た。
講師はフランス国立科学研究センター・研究ディレクター、今枝由郎氏。
チベット仏教経典学の世界的権威であり、ブータン国立図書館顧問として
ブータンに10年あまり暮らした経験を持つ。
講演内容は巷でも耳にすることの多い、ブータンが国を挙げて掲げる
GNH(国民総幸福)についての話を中心に行われた。
さすがに以前ブータンに滞在をされたご経験により、ブータン国内の情報に留まらず、
1980年代当時のインド、ネパール等隣国に関する情勢などにもお詳しく、
裏話も飛びだし、興味深い講演会となった。
幸福という言葉の裏に潜む、もう一つの顔を語って下さったお陰で、
GNH理念の原点を垣間見た気がした。

翌26日には新聞連載が終了したので打ち上げでブータン料理を食べに行った。
代々木上原にある「Gatemo Tabum」という店だが、現地の味さながら唐辛子を
ふんだんに使った激辛料理だが美味しい。
その他ネパール料理なども食べれる素敵なお店。

裏の話題と言えば先週観た映画を一作紹介したい。
中国ではすでに映画制作を禁じられていた、反骨の映画作家ロウ・イエ監督の
最新作「SPRING FEVER」
現代北京を舞台に「春の嵐」により掻き乱された一夜を彷徨うかのような男女五人。
狂おしいほどの欲望と絶望。移ろい、漂う、心と身体。(チラシ本文より)

原稿のことで頭が煮詰まりそうだった午後に、逗子に出掛け映画館で観た。
観終えて、久し振りに歩いた海は潮の匂いに混じって、海藻の香りが漂っていた。
遠くの車は灯台よりも明るいライトを道路に浴びせ、
車同士は異常なほど対向車とオレンジ色を重ね、
そこだけを見ていると太陽が沈んでいない時間のような明るさを放っていた。
明け方まで歩いて過ごしたら、いつ太陽がこのライトを打ち消すのだろうか
と空想しながら、夜の住宅街をぬけ、空っぽに近い電車で帰った。

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