「狭間の旅人」展覧会冊子 [湖心]
– 「室礼 湖心について」
二〇〇七年の秋、一冊の本が生まれた。 「漕」と名付けられたその本には我々の三年間に渡る琵琶湖への旅路の覚書と湖の息づかいが綴られている。燃えて姿を消した舟の事や、鏡のように月を映す湖面の事。気まぐれな風がおこすさざ波を追って瞳に湖を宿した老婆と出会えた事もあった。旅での出来事全ては声なき湖に与えられた水の記憶への幽かな糸口であった。そこを辿るうちに我々は二つの道を歩んでいた。一本は湖の中心へ、もう一本は心の中へと。 道は時折交わりながら深く続き、今再び中之島のグラフメディア・ジーエムで重なる。二本の道を結び、我々の旅は一旦終りを迎える。旅路で拾い、ここまで引き連れてきた物達にどうか耳を傾けてほしい。我々はそこに湖の声を封じ込めたはずだから。
最後に言っておきたいことがある。我々は湖の真ん中に立った訳ではない。心の真ん中に湖を見つけるに至ったという事を。
(冊子本文より) – 2008年6月7日発行 発行:graf media gm テキスト:片桐功敦(華道家)、津田直 SOLD OUT